「CAN-SLIM」は「オニールの成長株発掘法」(パンローリング)で詳細に述べられている銘柄選択のポイントになるキーワードの頭文字を集めたものです。今回は4番目の要素「S」についての概要と実際の投資における活用方法について説明します。
SはSupply and Demandを表しています。株式の需要と供給にまつわる話です。株価の上下には市場に流通する株式の量も密接に絡んできますし、誰がどのくらいの株式を持っているかによって株価の動きにも影響がでてきます。また供給される株式数がどのようなときに増減するかについて把握することは非常に重要です。この章ではそういった点にフォーカスした話をしています。
目次
値動きの軽い銘柄の特徴
この需要と供給の基本原理は株式市場にも例外なく存在する。株式市場では、ウォール街のどんなアナリストの意見よりも、この基本原理のほうが重要である。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
50億株流通している銘柄と5,000万株の銘柄では、どちらを買ったほうが良いだろうか。ほかの条件がまったく同じであると仮定するならば、通常は5,000万株の銘柄を買ったほうが良い成績を期待できる。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
物を買うとき、その物の価値が高いことで値段が決まります。価値の中にも様々な要素がある訳ですが、ここで述べているのは物の「量」ですね。需要が高いものの物量が少ないことによって希少価値につながる蓋然性(確かさの度合い)が高まる訳です。
価値が同じものでも少ないもののほうが値段が高くなる傾向にあることは皆さんも経験からお分かりになると思います。株もまた同じということですね。
企業の基本構成における発行済み株式数は、その株式の市場流通規模を示している。マーケットのプロは、それ以外にも「浮動株」の数に注目している。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
株式市場においては発行済み株式数よりも市場に出回っている浮動株の比率が重要です。発行株数が多くてもこの浮動株が少なければ希少価値は高まりますね。
この項目については、特に目安となる数字は示されていません。
私の経験上、全体の物量という意味では時価総額をみています。時価総額は発行株式数×株価ですから時価総額が小さい銘柄というのは基本的に発行株数も少ない傾向があります。多くても1,000億円、理想としては200億円~300億円くらいが狙い目です。
ちなみにテンバガー(株価が10倍)を達成している銘柄は50億円以下の時価総額が多いようですね。ただし、時価総額が低いと株価は乱高下しやすいので注意が必要です。
浮動株については時価総額にもよりますが、10%~30%程度が狙い目です。こちらも浮動株が少ないと株価は乱高下しやすいので注意ですね。
経営者が主要株主であること
経営陣が保有している株式の割合が大きいと(中略)株の値動きが経営陣自らの利害につながるために、企業としての株価上昇に対する努力が期待できるため、良い買い候補となる。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
大企業にはものすごい権力と影響力があるように思えるが、その規模の大きさが想像力の低下と生産性の非効率を招くことがある。大企業の多くは、昔ながらの保守的な「管理人タイプの経営者」によって運営されており、革新的な決断やリスクのある行動をとったり、素早く賢く行動をして急速に移り変わる時代に追いつこうという意欲に欠ける。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
新製品や新サービス、および発明などは、起業家精神に富んだ経営陣を抱える、革新的でハングリー精神にあふれる比較的新しい中小企業から生み出される。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
ここら辺は直感的にわかる話ですね。
経営者が株式を大量に持っていれば株価の動きに経営者の利害が一致します。「株価をあげよう。」というモチベーションに繋がりますね。
サラリーマン社長が勤める会社は株主やら顧客やら社員(いわゆるステークホルダーと言われる人達)の顔色を伺いながら経営しており、結果的に思い切ったことはできないし、やったところで自分に対する見返りが少ないという問題があります。
中小企業はさらに単一の事業からスタートしていることが多いです。従って、創業当初は波に乗れば大きく利益をあげることができます。逆に大企業は多角化していますから、仮にヒット商品が生まれたとしても全体に対する効果は限定的になりますね。
当然、ベンチャー企業は世の中にない新しい考えを実現するために創業されることが多いですね。世の中に受け入れられたときのインパクトには計り知れない効果があると思います。
株式分割について
企業は時として株式分割を行いすぎるという過ちを犯す。(中略)私の考えでは、株式分割は1対3や1対5よりも、1対2や2対3で行ったほうが良い(中略)。過度の株式分割は供給量が一気に増えるため、値動きの重い「大資本」の企業状態を本業よりも早く招く結果になりかねない。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
株式分割を2回か3回行うと、株価が天井を打つ傾向にある。われわれの大化け銘柄の研究では、大きな株式上昇を見せる前年に株式分割を行った企業は全体のわずか18%にすぎないことが分かっている。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
企業が急成長している時に株式分割することは決して悪いことではありませんが、成長のスピードがそれについていっていることが重要なのだと思います。
株式分割すると発行株数が増えるわけですから利益を株式数で割って算出されるEPSは当然下がります。2分割すればEPSは1/2ですね。それをもってしても、EPSがそれ以上に加速度的に成長していることが条件となる訳です。
分割をするということは流通する株式が増えますので流動性が高くなります。ある意味大口投資家にとっては大量の株を売りやすい局面といえます。分割を材料として上昇したあとに急落する銘柄はこういった事情があります。
分割する銘柄は利益成長率がそれ以上に高いことを確認することが大事です。
自社株買いについて
公開市場で長期間かけて継続的に自社株を買っている企業というのは見込みのある企業である。(自社株を10%保有していれば相当な量である)。これはほとんどすべての企業について言えることで、特にCAN-SLIMの基準を満たしている成長中の中小企業ならばなおさらである。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
自社株買いをするということは減った株式数で投資家の利益を分け合うことになるのでEPSの増加につながります。「C」と「A」の項目で見てきた通り、このEPSの成長率こそがCAN-SLIM投資の要です。
自社株を買うという行為は、流通する株式数を減らすだけでなく、企業が今後の売り上げや収益の改善を見込んでいることを暗示している。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
これについては、確固たる証拠がある訳ではないです。が、自社株買いによって株価が企業業績に影響を与える度合いが上昇することを考えれば、今後業績が上がる=株価が上昇すると考える局面で実行するのは合点のいく内容です。
ここで紹介した企業はすべて成長企業だった。収益が増加していない企業の自社株買いについては、それほどの信頼性はないだろう。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
オニールのこだわる点はEPSの増加です。自社株買いをしたとしてもEPSの成長が見込めない銘柄は避けたほうがいいですね。
負債について
その企業の総資本のうち長期負債や社債が占める割合はどのくらいかを確認しよう。一般には、負債の比率が低いほど安全で優良な企業である。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
過去2~3年の間に、総資本に対する負債率が減少しているような企業は検討の余地がある。少なくとも、利息の支払いにかかる費用が削減されるので、EPSが増加するからである。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
企業が成長する上では当然ながらお金が必要になる訳ですが、有利子負債(借金)が多くなれば、利益の多くが返済に消費されてしまうのでEPSの増加につながりにくくなります。少ないに越したことはありませんね。
これは業種によっては一概にいえないところがあります。例えば不動産業などはビル等を買う際には莫大な費用が必要になるため、借金することが前提となりますね。またM&Aなどで多くの企業を買収するような業態の場合も借金で企業買収を進めますが、買収した企業が高収益の会社ならば成長も加速します。借金することが成長のカギになっているんですね。
それでも、徐々に借金を返済してより効率的に儲ける=EPSが上昇する。ことが重要になります。
もう一つ注目するべき点は、資本構成における転換社債の有無である。その社債が普通株に転換されると、収益の希薄化につながることがあるので、注意したい。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
結構見逃し勝ちなのが転換社債それとストックオプションなどの要素です。今現在は影響しませんが、将来的に権利を行使されると株式の希薄化がおこり、EPSの下落につながります。
財務諸表をみてしっかり確認しておきたいですね。
需要と供給を見極める
ある銘柄の需要と共有を知る最善策は、日々の出来高を観察することである。(中略)一般的に、株価が一時的に下落するとき、出来高の減少が伴っていれば、大きな売り圧力がすべて出尽くしたことを示している。逆に株価上昇時に出来高の増加が伴っていれば、一般投資家ではなく機関投資家による買いが入ったことを示している。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
株価が揉み合いからブレイクアウトするとき(中略)、出来高は少なくとも通常時の40~50%以上になることが望ましい。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
毎週チャートをみること、そして正しいパターンが形成されているかどうかを判断すること、この二点を行うことで、その銘柄が機関投資家による買い集めの状況かにあるパターンなのか、それとも欠陥ばかりのパターンなのかを見分けるのだ。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
株価が大化けするうえでオニールが注目しているのが出来高の変化です。出来高の減少、増加がどういうときにおきているのか?チャートを見る時は株価の動きと合わせて必ず出来高の変化を見ることが重要ですね。
株価が大幅に上昇するとき、出来高を伴っているか?
逆に下がるときや調整の時に出来高は低くなっているか?
これを分析することで買い集めの時期と振い落しの時期そしてブレイクアウトの兆候をつかむことがテクニカル分析では重要になります。
私も日々の投資日記の中でこの分析を繰り返すことで株価の兆候をつかむ訓練をしていますので、参考までにご覧いただければと思います。
まとめ
四つ目の要素Sのポイントです。
1.時価総額が1,000億円以下であること
2.浮動株比率が10%~30%程度であること
3.経営者が大株主であること
4.株式分割をしてもEPSが増加する利益成長率があること
5.自社株買いをしてなおかつ利益成長している銘柄がよい
6.借金の多い企業は避ける
7.転換社債やストックオプションによる希薄化が懸念されるか確認する
8.日々銘柄を分析して、株価と出来高の変化を捉える
以上となります。
最後にオニールの一言で締めたいと思います。
CAN-SLIMの条件を満たす銘柄ならば、総資本の規模にかかわらず買ってよい。ただし、資本の少ない小型株のほうが上昇時も下落時も値動きが激しくなる。マーケットの焦点は小型株から大型株へ、あるいはその逆へと移り変わっていくものだ。公開市場で自社株買いをしている経営陣が多くの株式を保有している企業のほうが投資対象としては望ましい。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
他の要素は以下よりご覧ください。
1.「CAN-SLIM」のC(Current Quarterly Earnings) -直近四半期利益-
2.「CAN-SLIM」のA(Annual Earnings Increases) -年間利益の増加-
3.「CAN-SLIM」のN(New Products,New Management,New Highs) -新製品、新経営者、新高値-
4.「CAN-SLIM」のS(Supply and Demand) -株式の需要と供給-
5.「CAN-SLIM」のL(Leader or Laggard) -主導株か停滞株か-
6.「CAN-SLIM」のI(Institutional Sponsorship) -機関投資家による保有-
7.「CAN-SLIM」のM(Market Direction) -株式市場の方向-